「今日の部屋割りは・・・僕と悟浄、三蔵は悟空とです。」
八戒はそう言うと急いで部屋へ入っていった。
この状況下ではしかたのない話だ。
悟空のいびきが煩いことくらいでは、この部屋割りを変える理由にはならない―――――


36.5℃の時間 [ Day1 & Night1 ]
いつものように敵襲に遭って、 いつものように俺の視界の隅で悟浄が髪を翻していて、 悟空の「腹減った」が聞こえて戦いはすぐに片付く はずだった 「う、わぁぁぁぁぁ・・・・」 草むらから姿を現したガキが、運悪く妖怪を目の当たりにしてしまった 恐怖に竦んで身動きの取れないガキを、やつらが放っておく筈もない。 あっと言う間に数匹の妖怪がその子供に飛びかかる。 その手が子供にかかる前にばらばらに切り刻まれたのだが、反動で子供のいた部分の地面が崩れてしま う。下を見ればかなたに土色の地面が見えるだけ。ここから落ちてしまってはひとたまりもないだろう。 そう思った瞬間 「「悟浄!」」 八戒と悟空が声を上げると同時に、あいつはそのガキめがけて飛び出して。 木の葉か何かのようにひらひらと落ちていく紅い影が見えた。 急いで回り道を探して、坂を下りきったところで悟空の 「血の匂いがする」 と、子供のすすり泣く声が聞こえた。 「さんぞ、こっち。」 先頭にたって歩く悟空の後をついていくこと数十秒で 俺たちは目標にたどり着いた。 「悟浄!」 木に凭れ掛かるようにして、アイツは座り込んでいた。腕にはしっかりガキを抱いたまま。 「大丈夫、じゃないですね、悟浄。今、止血しますから。」 「あぁ、ワリィ・・・骨、何本かイッてるわ・・・」 正真正銘、ボロボロの悟浄。自分を庇って怪我をするなんて許せない。 けれど赤の他人を庇って、自分の方が重傷を負うなんて・・・ 「ほんっとに、救いようのねぇバカだな。」 ガキがいたから上手く受身も取れなかったのだろう。 「んっ?さん、ぞ・・・?ワリィ・・な・・・」 そう言っていつもの皮肉めいた笑みを浮かべて それから意識を手放した。 八戒が限界に近いスピードと荒っぽさでジープを走らせて、何とかたどり着いた街で とりあえず俺と悟空は宿を、八戒は悟浄をつれて医者を探した。 「あ、三蔵、この部屋に悟浄と僕でいいですか?」 身体中に包帯を巻かれた悟浄を引きずるようにして、八戒が部屋に入ってきた。 「隣でも良いんですけど、ちょっと・・・」 苦笑いを浮かべる八戒からして、恐らく悟空が寝ているか何かなのだろうと思う。 「あぁ、構わん。」 「ありがとうございます。荷物は後で取りに行きますから。」 「わかった。」 短く言い捨てて、部屋を出ようとドアに手をかけると。 「あ、悟浄は出血が少し多いのと、骨が折れてたりするんですけど、命に関わるものではないですって。 だから、心配しないでくださいね。」 最後の方を笑って付け加えられて、なんだか素直に心配だというのも癪な気がして 「別に、心配なんかしてねぇ。それに、殺したってしなねぇだろ、そのバカ河童は。」 わざと興味のないフリをした。 あれから。悟浄は懇々と眠りに付いたまま。 八戒の話によると、体力の回復のための自己防衛機能だろうというのだが。 いつもいるはずの者がいないというのは、何か落ち着きがない。 バランスが保てないような、そんな感覚。悟空でさえもが、 「悟浄がいねぇとつまんね」 といって、大人しく夕飯を食った。 「なぁ、悟浄いつ目ぇ覚ますかなぁ。」 部屋に戻ると、悟空が俺に問う。これからも治療(?)をしなければならない八戒がいる手前、さっき までは自粛していたのだろう。 「・・・アイツがいつまでも大人しく眠ってるようなタマか?」 「う・・・そうだよな。どうせすぐ煙草とかいって起きるんだよな。」 「あぁ、心配するな。」 最後の言葉は自分に言い聞かせるように。悟空の頭をくしゃくしゃと混ぜながら言った。 「・・・風呂使うぞ。」 「あ、うん。」 悟空がイビキをかきだしたら眠れない。 今までの経験で痛いほど分かっているので、早めに寝てしまうことに決めた。 いつもよりも熱いシャワーを勢いよく浴びる。 ざぁぁぁと流れる水音を聞いていると、なんだか聴かなくてもいいものまで聞こえてくるようで。 「・・・・ったく、あのバカ・・・」 『わりぃな』 そう言って笑った顔がちらつく。一体何に対しての『わりぃな』なんだか。 普段はふざけてるくせに、そういうときだけまじめな顔しやがって。 「他人庇って自分が大怪我なんてするんじゃねぇよ、バカ。」 人間のガキを庇うことは仕方ないことで、アイツがそういうヤツだってことも分かってる。 なのに・・・イライラが納まらない。 ゆっくり湯船に浸かる気にもなれなくて、急いで身体を洗うと上半身は裸のまま洗面所を出た。 「おい、風呂あいたぞ。」 サルが入るかと思って声をかければ。 「う〜ん、あ、俺ちょっと悟浄見てくる。」 そう言ってドアノブに手をかける。 「三蔵も行かない?」 くるりとこちらを向いて言うが、 「いや。八戒に任せる。」 「ふーん、じゃぁ俺行ってくる。」 「あぁ、騒ぐんじゃねぇぞ。」 ぱたりとしまったドアの向こうで、遠ざかる足音がした。 一晩くらい。俺が行ってもどうにもならない。 それなら、明日からに備えて早くに眠ってしまおう。 入り口から遠い方のベッドに乗り上げて、扉に背を向けて横になった。 それにしても・・・・・・・眠れねぇ あれから暫くして、悟空が帰ってきて 「悟浄、さっき一回起きたみたいなんだけど、また寝ちゃったんだって。」 といったのも。 隣の部屋のドアが開いて八戒がどこかへ行って戻ってきたのも。 窓の外の道を酔っ払いが通ったのも。 全部きいていた。 元々眠りが深いほうではないし、一晩くらい眠らなくても問題ない。 悟空のイビキに悩まされ、無理やり目を閉じれば暗闇が紅く浮かび上がり。 そんなものと格闘しているうちに、窓から黄色い光が漏れていた。
Day1 & Night1  Fin Next
遅くなりましたが、キリリク第2弾。 テーマは「三蔵様の安眠を手に入れるまで」です タイトルは、恐れ多くも私のバイト先の先生の出した本のタイトルから ヒントを得させていただきました。 悟浄の体温なんて知らないけど、 きっと普通の人とあんまり変わらないですよね。 私は実はもの凄く体温が低くて。 35.0℃ギリギリしかない日もざらです。 それはともかく。 三蔵様が眠れる日はいつになるのでしょうか。 2回か3回で完結予定です。 蒼 透夜

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