「っぁ・・・あぁ・・・」
暗闇を彩る、甘く擦れた声と、薄ぼんやりと浮かび上がる二つの影。
「っ、さんぞう、んなに締めるなって。」
「ん、むちゃ・・・ぃうなぁっ」
ギシギシと、二人分の重さに抗議するかのように音をたてる宿の古びたベッドの上で、
三蔵の脚が俺の腰に絡みつく。
深く浅く、三蔵のポイントを突くように責めたてる。
「んっぁ・・・はぁ・・・・・ああっ」
ピリと背中に痛みが走って、それと同時に三蔵の身体から力が抜ける。
「うっ・・・」
イッた衝撃で一層キツく締め付けた中で、俺も達した。
情事のあと、意識を飛ばしてしまった三蔵の身体を清める。
汗と唾液と精液と
そんなものにまみれていても、輝きを失わないヤツ。
ところどころに自分のつけた痕があって、
それがまるで自分の罪を糾弾するかのように感じるんだ。
俺は、コイツを捕らえてしまっているんじゃないか。
みんなの、それこそ全ての人の畏敬を集めて光り輝いている三蔵法師を
俺なんかの欲で汚して・・・・・・
俺は闇に同化した蜘蛛
ずーっと愛情が欲しくて、いつの間にか大きな巣を張ってた。
自分は到底辿り着くことの出来ない、太陽の下を自由に飛び回る蝶をみながら。
捕まえたくて、でもアイツだけはこの巣に掛かって欲しくなくて。
そんな矛盾した気持ちを抱えて・・・・・・・
その気持ちが大きくなって、俺を覆ってしまいそうになるから
俺は三蔵を抱くんだろう
せめて、その一瞬だけでも自分を求めてほしいから。
でも・・・・・・
三蔵はどうして此処に留まってくれるのだろう。
逃げ出そうと思えば出来るのに、どうして俺に捕まってくれてるんだろう。
俺の身体を拭くとき、悟浄の手が割れ物を扱うかのようにになること
どこか申し訳なさそうに、自分のつけた痕に触れること
それに気付いたのはいつだっただろう。
俺の身体を拭き終わると、あいつは決まってシャワーを浴びに行く。
その時背中に自分の残した傷を見つけては、俺は後悔の念に苛まれるのだ。
お前はもっと自由にいきたいんじゃないか、と。
俺は酷く狭い暗い世界で育った。
他人と言葉を交わすことも、酒を酌み交わすことも、
誰かを欲しいと思うことも。
何もないモノクロームの世界で生きてきた。
お師匠様が亡くなってからは、何かを欲している気持ちを閉じ込めて、
それでもどこかで諦め切れなくて。
自分から動く勇気はないから、大きな網を張った。
落ちてくるものは逃さないように。
悟空を拾ってから、俺は気付かなくて良いものに気付いてしまった。
欲しいものが出来た。
それでも、俺は暗い場所でしか生きてこなかったから。
自由に派手な夜を飛び回るアイツを追いかけることも出来なくて。
手に入れたい、けれど捕らえたくはなかった
こんな、不自由はアイツには似合わないと思ったから
なのに。
何を思ったかアイツは俺のところに落ちてきたんだ。
この紅い男に手を伸ばしてもいいのだろうか。
そう思い続けたまま、身体だけは繋がっている
俺に出来たのは、背中に小さな傷をつけることだけ
どうして、悟浄は俺の横に居続けるのだろう
捨てようと思えば捨てられるのに、俺に微笑みかけるのだろう
囚われている自分は幸せで
なのに相手は不幸かもしれないなんて
どうしてそんなことを思うのだろう
相手のことを、相手の気持ちを
自分の気持ちと同じ分だけ信じてあげる
そんな簡単なことも
出来るようになるまでには
まだもう少し、時間が必要だった
fin