好きだから、出来ること 大事だからこそ、したくないこと―――――36.5℃の時間 [ Night2 ] 湯を張った桶から水を溢さないように。 おかしな気持ちを抱いている自分を悟られないように。 そろりそろりと、あいつの待つベッドへ向かった。 「おら、服脱げ。」 「ん、あ、三蔵さまサービスしてくんねぇ?」 ボタンを外したところで、見上げるようにして覗き込まれる。 「何で俺がそんなことまで・・・」 「まだ、腕とかあんまり動かしたくねぇんだよ・・・ダメ?」 先手を打って理由まで言われると、断るに断れない。 「しかたねぇな・・大人しくしてろ。」 はーい、とガキのように返事をした男の、シャツを剥ぎ取る。 傷に触れないように、そぉっと。 ふぅぅ 息を吐いたのはどっちだったか。 パジャマ代わりのシャツを取り除くと、下からは包帯でぐるぐる巻きにされた身体が顔を出した。 結び目を解いて、一重ずつそれを外す。 かすかに残る血の跡と、包帯が外れるごとに感じるアイツの匂いと。 指先に触れる温もりが、押さえたはずの“何か”を掘り起こそうとする。 「派手にやられやがって。」 そういいながら傷跡をなぞる指。 きっと、本人は無意識なのだろうけど、俺の熱を煽るには十分な行為。 「なに?傷物は嫌い?三蔵。」 茶化していうと、ちょうど心臓の辺りで三蔵の指が止まった。 「・・・バカが。」 「あは、三ちゃん、もらってくれる?」 言った瞬間。 ハリセンではなかったものの、頭を叩かれる。 「ったく、いいかげんにしろ。」 「はーい。ごめんなさい。」 わざと、明るく、子供っぽく。目覚めてしまった熱に気がつかないように。 「おら、腕挙げろ。」 固めに絞ったタオルで、三蔵が身体を拭いていく。 「なぁ、さんぞ?こっち向いてよ。」 やっと目が覚めたって言うのにろくに話もしてない。 さっきから、決して目を合わせようとしない。 そんな三蔵に焦れて無理やりこっちを向かせると、三蔵の顔は微かに上気していて。 我慢が出来なくなって、腕を引いて三蔵を自分の膝の上に乗せる形にした。 「っ・・・何・・・」 「何?わかってんだろ、三蔵も。」 「・・・わかんねぇよ。」 「あ、そ。なら良いけどさ。こういうこと。」 覆い被さるようにキスをすると、三蔵は思い出したように抵抗を始めた。 けど俺のケガを心配してるのか、抵抗というほどのものでもなく。 「何で?三蔵もちょっとは期待したっしょ?」 「・・・んなこと・・・」 「あるよねぇ。」 にやっと笑いながら言うと、分の悪さを悟ったのか三蔵がぷいっと横を向く。 その時に髪の毛に隠れた耳の先が赤かったことに、あいつは気付いていないんだろうけど。 「てめぇは、自分の怪我が分かってねぇのか。」 顔を背けられたまま、三蔵が吐き出す。 「わかってます。わかってるけどさぁ・・・」 「なら、やめろ。」 「そんなこといっても、三ちゃんだって・・・」 「八戒に言われたんだよ、無理させるなってな。」 「なにを?」 「俺を見ると、お前は発情するから。だからさせるな。」 脳裏に、にっこりと笑う碧の瞳が思い浮かぶ 「だから・・・」 すとんっとベッドから降りて体勢を立て直すと、三蔵は俺の目を見て言う。 「今日は、寝ろ。」 その顔があまりにも優しくて。 もったいないけど、まぁいいかという気にすらなってしまう。 そのまま目を閉じると、まだ眠れるのか、意外に早く睡魔が襲ってきた。 ふわふわとした感覚の中で、三蔵の声が聞こえたようなきがする。 『好きだから、しないんだからな。』 髪の毛を梳く手があったかくて、そのまま深く落ちていった。 朝方目を覚ますと、ベッドサイドにうつぶせになっている三蔵がいて。 俺の手を柔らかく握っていて。 三蔵の肩に、余っていたタオルケットをかけると、もう一度眠りについた。Fin <後日談> その後、悟浄を起こしに来た八戒が1日延泊を決定。 すっかり体調を戻した悟浄と、睡眠を補った三蔵に、 心配したんですからね・・・と、八戒の嫌味が降り注いだとか、何とか。やっと、完結です。最終話、以上に短いけど(苦笑) とりあえず、終わりました。 うーん、書いているうちに自分でも意味分からなくなったんですけど、 「好きだから、しない」 っていうセリフが書きたかったんです。 大事なんだよって言う気持ちをこめて。 お待たせしてしまって、ごめんなさい。 透夜でした。